野分のわきとは、秋に吹く強風のことです。
 その野分の季節に、アーティストのスタジオ数軒とアートラボはしもとの片隅をお借りし、ささやかながらも一つの展覧会を仕立てたいと思います。

 約110年前、夏目漱石は小説『野分』を発表しました。三人の文筆家をめぐる小説『野分』では、登場人物の一人が次のように語ります。表現者が世間に理解されず一人ぼっちであることは “崇高” だ、と。
 漱石の時代からずいぶんたちましたが、この地域のアーティストのスタジオをめぐると、この “崇高” が今なお遠く残響しているように思われます。スタジオの多くがひっそりとして見えるからでしょうか。もしかすると、抽象表現主義の系譜にあるアーティストが相模原地域に比較的多いのも、関係しているかもしれません。
 けれどもまた、アーティストの在り方に、一種の崇高さを託すだなんて、あまりにナイーヴすぎるのも確かです。表現はそんな実社会から遊離したものではないですし、たとえ遊離して見えたとしても、その見方の中に既に社会の諸相は埋め込まれています。

 さて、展示作品の置かれたスタジオやアートラボはしもとは、互いに若干、離れています。そのため、郊外の風景を横目に見ながら地域一帯を巡ることになります。巨大なショッピングモール、道に沿って続くフェンス、資材が積み置かれた空き地、それらの隙間に生いしげる植物群。かつて崇高の対象とされたおおいなる自然の姿は見当たりません。それでも、スタジオ脇の木立を秋の強風がざっとかき分ける瞬間、その日常的な景色の中に一種の崇高さがあるような気がしてなりません。

会場

Venue

02pimp studio

東京都八王子市北野町590-7
斎藤玲児
斎藤玲児

斎藤は人生のすべてを記録したいと語り、日々、撮影している。しかし、その撮影態度からは、具体的な対象や出来事をカメラで逃さず捉えようといった意思はそれほど感じられない。事実、映像が示すのは、部屋の隅、夜の街灯、誰かの身体の一部など日常生活の断片ばかりだ。むしろ、生活の中で逃れていくもの、見過ごされていくものが、断絶と連鎖を繰り返しながら一時的に映像という形でかき集められている。今回はこの映像を、アーティストの制作場所として利用されているpimp studioの一角に投影する。

03LUCKY HAPPY STUDIO

東京都八王子市館町1980
高山陽介
高山陽介

彫刻家の高山はスタジオの一部を改装し、そこに暮らしながら制作している。あたかも修行僧のようなストイックな生活に見えるが、スタジオの中は木の匂いが満ち心地よい。
 今回は、このスタジオ周囲に作品を展示する。作品を見せるのに、遠くの展示空間までわざわざ作品を移動させる必要はない。彼の作る彫刻は、秋の草木に囲まれたこのスタジオ周辺の空気を少しだけ変えることだろう。

12クンストハウス

神奈川県相模原市緑区大島1375-2
片山真妃
片山真妃

片山は今回、金属板を支持体に選び、周囲の色や光を反射する絵画を制作する。もしかしたら、絵画ではなく何かの標識等に見えるかもしれない。また、その平面に目を凝らしても、光沢のせいで視線が滑ることも想像できる。しかし、その効果によってイメージは絵画の外へとスライドし、外部と緩やかに連結するだろう。求心的な抽象表現から、繁茂する蔦のような有機的なイメージの拡張へと、片山は向かう。

15STUDIO牛小屋

東京都八王子市元横山町3-9-3
山根一晃
山根一晃

雨の中、スタジオの一部にかけられた薄布が揺れている。それは神社仏閣にかかる御簾のように内と外を軽やかに仕切りつつ、その内部へと眼差しを誘う。薄布越しにスタジオで営まれる制作の日々が垣間見える。
 なお、この布が現れるのは雨天時のみだ。そのため、雨天時にスタジオ前に立つと、青空のもとあっけらかんと開かれたスタジオの様子を二重写しに想像するだろうし、その逆もまた然りだ。ある出来事が立ち上がる条件について思考を促すきっかけとしての薄布でもあるのだ。

16REV

神奈川県相模原市緑区田名2265-1 田名野崎工場A棟101
大槻英世 佐々木耕太
大槻英世

大槻は、バーネット・ニューマンの絵画を初めて見た時、思わず笑ってしまったそうだ。崇高について探求してきたあのニューマンの作品を、である。
 理由は簡単で、マスキング・テープをペリッと剥がす時の身体感覚が画面から伝わってきたからだ。深遠さの中で凝り固まってしまった思考。それをペリッと剥がすテープのくず。

佐々木耕太

相模原は工業都市だ。大小の工場が集積するこの街には、数多くの倉庫も建っている。そして、倉庫のうちのいくつかは、現在、アーティストのスタジオとして利用されている。佐々木が描くのは、彼自身のスタジオも含む相模原の倉庫の形だ。倉庫の輪郭線が倉庫のシャッターに落ちる。

23SPECIAL FEELING STUDIO

神奈川県相模原市南区当麻870-9
中野浩二
中野浩二

水を加えられドロドロになった石膏は熱を発しながら短時間のうちに硬化する。その発熱する流動体に対して、限られた時間内にどう人は反応しうるのか。中野が普段、石膏像を主に作るのは、この制作の過程に関心があるためである。
 今回は、その石膏像を鋳造したブロンズ像を展示する。即興的な物と人間とのやりとりの成果が、ブロンズによって恒久的な形を与えられる。とはいえ、このブロンズ像は物理的に立たないので寝かせた状態で展示される。

ALアートラボはしもと

神奈川県相模原市緑区大山町1-43
小田原のどか 水上愛美
小田原のどか

記念碑(モニュメント)の多くは不動のものだ。一方、記念品(スーヴニール)は元々の場所や時間から離れて初めて、その効力を発揮する。それでは、彫刻(スカルプチャー)というフレームのもとで、記念碑(モニュメント)と記念品(スーヴニール)を再度、組み直す時、一体、何が起きているのだろうか。距離と時間を超えて再度、彫刻を召喚させる試み。

水上愛美

私たちの感性や思考回路に、知らず知らずのうちに影響を与える様々なイメージ。水上はそれらを再編集し、キャンバス上の絵画へと変換してみせる。今回は、私たちの生活を支える重要なインフラでありながら、絵画表現においてあまり意識されることのないショッピングモールを借景に、作品を展示する。

スケジュール

Schedule

2018.10.13(土)—11.4(日)

公開日開場時間はスタジオごとに違います。

Date: pimp studio13:00–18:00 LUCKY HAPPY STUDIO13:00-18:00 クンストハウス13:00-18:00 STUDIO 牛小屋13:00-18:00 REV13:00-18:00 SPECIAL FEELING STUDIO13:00-18:00 アートラボはしもと10:00-18:00
1013-
14---
15------
16------
17-------
18------
19------
20--
21
22------
23------
24-------
25------
26------
27----
28
29------
30------
31-------
111------
2------
3
4